染み付く


二十代の時にしていたことは、

頭に染み付くと思う。

私が二十歳から通っていた、

ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・

ミュージックという学校では、

金曜日の夕方五時になると、

秘書室の外の壁に新しい練習表が貼り出され、

その瞬間、家で練習できない哀れな生徒たちは、

次の週の月曜から金曜までの、

校舎のすべての練習室を

ペンで書き込んで予約できた。

朝の八時から夜の九時(だったかな)、

図書館前の狭い裏庭のプレハブ練習室から

二つの塔の中の各階に入っていた小さなオルガン練習室まで、

全部で50ほどあった練習室を

一日一人二時間まで予約できた。

タバコを吸いに行ってしまった生徒などが

お部屋を十分間以上留守にしたら、その部屋を

略奪することはできるけれど、

その金曜日の夕方に、ほぼ次の週の練習の出来が

確定してしまうので、みんな必死だった。

ロンドンでは、一年目は寄宿舎に入っていた私も含め、

練習が十分できる部屋に住んでいる人など

一握りだったから。

今学期から、自分の家の音楽室が

家族三人で取り合いになるのを防ぐために、

練習時間の予約表を用意した。

金曜日ではなく月曜日の朝、手帳を確認しながら

家族とその週の練習を書き込んで行くと、

懐かしさでいっぱいになる。

一度、ペンを忘れてカレッジの練習予定表に

鉛筆で書き込んだ金曜日、

月曜日の朝には誰かに消されて、

その週の練習が半分ぐらい奪われていたことを

思い出した。

練習の予約は人生の基本、と、頭に染み付いている。


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